デカルトの四接円定理

デカルト古代ギリシャ以来の数学の伝統であった幾何学と、文字や方程式を操作する代数学との両方を融合させた、極めてエポックメイキングな数学者・哲学者である。

アテネプラトンが開いたと言われる「リュケイオン」の入り口には、「幾何学を知らないものはこの門を入るべからず」と言う文言が掲げられていたほど古代ギリシャにとっての数学は幾何学そのものであった。

 

もちろんユークリッドディオファントスなどは、幾何学のほかに整数の不思議に見せられて興味を抱き研究をしていたらしい文章が残っている。

 

幾何学の伝統から離れ、純粋な方程式や代数を研究しだしたのは、ローマがゲルマン民族に滅ぼされ学問の中心がインドやアッバース朝のアラビアに移植されて発展した事が大きい。

アラビアに征服されるまでのインドは天文学が非常に盛んで、天体の位置関係のデータを記録するのには幾何学よりも数そのものとしての研究が盛んになった事は、岩波科学ライブラリーの中世インドの数学の変遷の歴史についての本「天文学の誕生」や、中公新書の「インドの数学 著者:林隆夫」を参照してほしい。

(アーリヤバタ・ブラフマグプタの二大天才が中心)

アラビア帝国の2代目カリフ(アッバース朝のカリフ・マンスール)は、ギリシャローマからインドに移植されて独自の発展を遂げた数学に非常な敬意を示し、わざわざ宰相に命じて、アラビア語に翻訳させ、学問の興盛を促したとの伝説がある。

 

デカルト以前にもフィボナッチやダヴィンチ等がアラビア語の先進的な数学書を読み、ヨーロッパ世界に紹介し、中世の西洋暗黒時代から抜け出すように、自らの頭・つまり論理的思考により中東のより発展した書物の理論をさらに推し進め、ルネサンス時代が到来した。

 

そしてルネッサンスの価値観の延長として自らの論理的思考で科学を推し進めるデカルトパスカルフェルマーなどが登場した。(スピノザホイヘンスなども)

 

デカルトが近代科学の中興の祖であると言う事はあながち間違ってはいない。なぜなら別々のものとされていた幾何学と方程式を融合させた解析幾何学と言うとんでもないものを発明したからである。今学校で習っている数学はほとんどデカルトの恩恵に預かっていると言っても良い。デカルトがいなければ方程式をグラフ(つまり図形)で表すなどと言う発想は生まれなかっただろう。

 

 前置きが長くなったが、ここで本題の「デカルトの四接円定理」を解説してみたい。これはデカルトらしく接する円のパラメーター(半径の逆数)が、きれいな方程式として表されると言う摩訶不思議な理論である。

 

まず外側の大円を描き、その内部に2つの円を描く。その3つの円同士は互いに接していなければならない。

そして大円の内部の円の半径の逆数を「曲率」と呼び、その円の内部にメモしておく。ちなみに1番外側の大円は、ー1と言う曲率として定義しておく。(なぜ半径の逆数などにするのか?の答えは式が煩雑になるのを避けるため)

この1番外側の大円と、その内部の2つの円は互いに接するが、3つの円の間には隙間がありもう一つの円がかけることに気づく。

この隙間に入る4つ目の円の「曲率」(半径の逆数の事)は、いくらになるかは普通はわからない。たとえ1番外側の円の曲率とその内部に接している2つの円の曲率が分かったとしても、その3つの円の隙間にある4つ目の円の曲率は普通はわからないはずだ。

 

ここでデカルトは天才的なひらめきをしてその4つ目の円の曲率を方程式によって求める方法を編み出した。

次の定理である。

「平面上で互いに接し合う4つの円の曲率

a,b,c,d の間には次のような関係式が成立する。

  2(a^2+b^2+c^2+d^2) = (a+b+c+d)^2

ここでの注意点は、1番外側の大円の曲率は、

-1 として計算することが注意するポイントだ。

 

 参考として図を載せるので皆さん曲率を方程式に当てはめて確認してほしい。この定理を使うと、3つの円が接しているときにその3つの円に同時に接する4つめの円の曲率(半径の逆数)が計算によって求めることになるので、実用的でもあるし何より美しい関係性だと思う。

 ではいかに参考として載せます。

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2{ (-1)^2+3^2+2^2+d^2}= (-1+3+2+d)^2

この連立式を解いて、四つ目の円の逆数d、つまり半径が求まる。ちなみに2と6と言う2つの数字が出てくるのは、この方程式が二次方程式であるからだ。そして3つの円に接する4つ目の円も2つちゃんとある。

デカルト以前は試行錯誤して解いていたかもしれない。これを機械的な代数操作により、試行錯誤も直感もいらず、万人が解けるのはやはり画期的な発明だ。

 

※ちなみにこれを3次元の球面にして接する球の半径を求める公式を発見した人も後世なって現れた。(ソディの6球連鎖)←江戸時代の天才和算家が先に発見していたという伝説もある

四次元でもあるのか分からないが、つくづく不思議なものだ。

 

ちなみに応用編としてアポロニュースの窓と言う図を上げておく。

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この図形に似たものとしては、ピタゴラスの定理の応用編とも言える「アルベロスの定理」などがある。(参考図書:岩波科学ライブラリー174   アルベロス 3つの半円がつくる幾何宇宙)